東京セレソンDX「くちづけ」

私は千葉雅子さんや土田英生さんといった人たちが好きで、宅間孝行という人が苦手だ。
3人とも劇団の主催で作・演出・出演をする人だが、
宅間氏には時には主演(しかもいい役)をするようなてらいや屈託のなさがあり、
ああずいぶんオレオレな人なだとは思っていたが、
まあ小さいグループでは大将になるべき突出した人なんだろうし
昔は一応、本を書いている時は別名で書くという慎ましさも持っていた。
しかし朝ドラ「つばさ」では(これは彼の責任ではないだろうが)
彼がつばさのお相手ポジションになっていき、気持ち悪くて視聴を止めてしまった。
そして最近は脚本を書く際も「宅間」になって、「花より男子」とかで毎回ツボをついた(やっすい)泣きの台本で売れて、泣かせがうまいのは確かに認めるけど、調子こいてきたのでは〜?と思っていた。


しかし今回は大好きな金田明夫様が主演ということで、まあ一応見に行くか、と。
「くちづけ」は知的障害者を持つ親が子供より先に死ぬ運命に直面したら… という話。
「スマイル」もそうだったし、社会的弱者を描くことに最近ハマっているらしい宅間氏。
知的障害者をイノセントに描きすぎているところはちょっと鼻白んだが、少なくとも親の側の心情にうそはないと思う。
同行者は率直に深く感銘を受けた様子だったし、普段ドキュメンタリーとかで社会の実情に触れていない人には泣けるしとっつきやすい、しかしただの浪花節に終わらず知的障害者を取り囲む現状を伝える、よい案配の作品だったと思う。
セレソンDXの公演というより実質はプロデュース公演で、金田さん、石井さん、藤吉久美子さんという大人たちががっつり芯を組んでいて、お芝居も非常にしっかりしていた。


私はたぶん宅間氏のベタ具合を「ベタってええやん」「すてきやん」と熱く語れるような厚顔さ、田舎くさい紳助イズムだと受け取って、それで苦手なのだろう。
だけど紳助ほど商売に走らず、アツいだけのように見受けられるし、こういう芝居に人が入らないのはまずいと思う。


ということで今週末あたりは席が空いているようなので見に行ってからいろいろ考えるとよいと思う。
少なくとも金田明夫さんはすばらしい。ただの人畜無害な中年の人がやるのではなく、抑えても色気がもれちゃう明夫だからこそ、30歳の知的障害者の娘との近親相姦的な関係性まで想像させて、何よりそこがいい。